夏男と夏子
――な、なんだ?! 誰かの忘れ物か?
俺の砂を踏みしめる微かな足音に反応するように、その影が動いた。
「誰だ? 誰かいるのか?」
声を出したところで、俺は後悔した。
ここは海だ。
俺みたいに一人で海を見ながら缶ビールなんて族の方がレアなのだ。
おおかた、カップルが海辺で戯れている、ってのが現実的な日常風景なのだ。
「す、すまん。邪魔したな」
俺は踵を返して、その影から遠ざかろうとしたんだか……
「待って」
そう言ってその影が立ち上がり俺の方に歩いてきたんだ。