夏男と夏子
「ほい、ビール」
「ありがと」
「こんな夜に、一人で浜辺をうろついてちゃ危ねぇだろ」
「いいの。この浜はあたしの庭みたいなもんなんだから」
「だからって……」
「心配してくれるんだ」
「まぁ、いちおう、お前も女だし」
「ありがと、夏男くん」
「な、なんで俺のなまえ……」
「さっき、おじさんとこで履歴書見せて貰ったもの」
「反則だ……」
それから暫く、二人で夜の海を見つめながらビールを飲んだ。
聞きたいことは山ほどあったが、この海が全てを飲み込んで無に帰してしまった。
そんなこと、どうでもいいじゃないか。
寄せては返す波の音が、言葉の代わりに囁いているようだった。
「さぁてと、帰るかな。夏男、ご馳走様」
「送ってくか?」
「アハハ……、あたしんち、この国道の真向い」
夏子は、1本の空き缶を残し、あっさりと去っていった。