夏男と夏子


が、八月の終り、大学もそろそろ始まろうかという微妙な頃あいで、夏子から電話がかかってきたのだ。


「ハァイ、夏男くん、元気してる?」


俺は言葉を失った。


「なんで、お前が俺の携番知ってるんだよ?」

「え、だって、履歴書に書いてあったよ」


悪びれず答える夏子の本心を計りかねた。


「で、なんだよ」

「ビール飲みにいこ」

「は?」

「とりあえずビール」

「お前、俺をおちょくってんのか?」

「だって、夏男くんと飲んだビール、最高だったよ」


無邪気に俺をビールに誘う夏子の本心を計りかねた。

でも、まぁ、俺も男だ。

惚れた女の誘いを断るのはもったいない。

何より夏子の本心を見極めに、指定されたビアホールへと出向いた。

そして何回かのビアホール通いの末、わかったことが一つ。


夏子は酒もめっぽう強い、ってこと。


酔わせて本音を探ろうなんて甘い考えは捨てざるを得なかった。

で、まぁ、今に至るってわけだ。
< 29 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop