あおぞらカルテ
夜11時を回った頃。

ほとんどみんな帰ってしまって、静まり返った医局は、オレのデスクの場所だけ蛍光灯がついている。

こういう環境って集中して勉強できる。

コーヒー飲み放題だし、冷暖房完備だし、担当患者さんの急変にもすぐに対応できるし、最高じゃん?

大学側が借り上げた無駄に広い4LDKのボロ家は、一人で暮らすには寂しすぎる。

それに、隙間風がどこからか吹いてきて、ゾクゾクするんだ。

幽霊でもいるんじゃないかってさ。

あんまり帰りたくないんだよなぁ。


「道重先生、いらっしゃいますか?」


声に振り向くと、薄暗い廊下から、当直看護師が医局を覗き込んでいる。


「はい?どうしました?」


まさか急変とか?

嫌な予感が当たっちゃった?


「まさか西田さんじゃないですよね?」

「いえ、そうじゃなくって…」


とりあえず私服の上から白衣だけ羽織って、歩きながら看護師の報告を聞く。


「井口さんです。今日、先生が訪問された、あの井口さんの娘さんからお電話が…」

「井口さん…?」
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