あおぞらカルテ
親戚一同がにぎやかに葬儀の準備を進める中、オレは台所の蛍光灯の下でボールペンを走らせていた。

院長先生はその筆跡をじっと見つめる。


「道重先生、今までに死亡診断書を書いたことありますか?」

「ありますよ。大学病院では、こういう雑用を下っ端がやるんです」

「雑用、ねぇ…」

「でも、実際患者さんを診させてもらってるのは…一番近くで診てるのは下っ端だと思ってるので、責任を持って書かせてもらってます」


わざと確認医師のサインを空けて、院長先生に差し出した。


「今までずっと井口さんのこと診てこられたんでしょう?だから、最後のサインも院長先生じゃないと、井口さんに怒られてしまいそうです」


院長先生は黙ってペラペラの紙を受け取った。

そして、最後の欄に名前を綴る。


「大学病院では“力が及びませんでした”とか“大変残念ですが”とか、そういう言葉を言うように指導されてきて…こんな臨終の場って初めてで…」

「最近の若い子はみんなそう言うよ。でも、昔の日本はこれが普通だった」


おばあさんの淹れてくれた日本茶をすすると、懐かしいような香りがした。

食道を熱いお茶が通り過ぎていく。


「…オレもこんな風に死にたいって思いました」


院長先生は印鑑を押して、最後の仕事を終えた。

人の死に方について、深く考えさせられた一日だった。




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