あおぞらカルテ
「西部奈菜を退院させるだと!?!?」


カンファレンス室はどよめきが起こった。

オレはプロジェクターの前に立ったまま、じっと部長の顔だけをみていた。


「大屋先生の方針ですか?」

「いいえ、僕自身が判断しました。大屋先生には、西部さんのことを完全に任せてもらってますので」


大屋先生は黙ってオレを見ていた。

助け舟を出してくれるとは思ってない。

大屋先生と同じ不整脈チームの先生たちが、呆れた顔をして言った。


「退院させて、家で、学校で発作が起きたらどう責任を取る?とったばかりの医師免許を返上する気か?」

「父親は立派な医師なのに。これだから2世ドクターは考えが甘いというか…」


カチンときた。

言われるのはわかってたけど、実際言われたらやっぱ不愉快。

ムッとしたオレに、いつもの声のトーンで大屋先生が言った。


「道重先生、どうして退院させようと思ったのか、そのプロセスを話してください。退院許可はそれから考えますから」

「…彼女はまだ16歳です。話してみたところ、断固拒否というわけではなく、迷っている様子でした。これから長い人生をどう生きていくか、決断するには時間が必要だと思います。一度自宅退院して、自分の生活の場で考える必要があると思いました。ましてや、生死にかかわる問題です。例えば…先生方は、いつ雷に打たれるか怯えながら生活したことがありますか?」


喉がカラカラになった。

あぁ、雷の例えは少々やりすぎだったかと反省した。


「自分の生活の場で…ねぇ」


部長がぼそっと言った。

そして、少し笑いをこらえたみたいな表情をした。


「いいでしょう。ただし、退院ではなく、外出と言う形で許可します」

「…ありがとうございます!!」


思いがけず、部長は笑顔だった。
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