あおぞらカルテ
そんなある日、新規の患者さんがやってきた。

豪快な感じのおばちゃんで、つい2週間前に胃がんの告知を受けて、これから亜全摘出術に挑むとは思えないくらい、大きな笑い声を病室に響かせた。


「この前の検査のときに下剤を大量に飲んだでしょ?あの時に体重が減ったみたい!2キロも減るなんて人生初よぉ~!」


これは“よかったですね”と言うべきなのか…悩むぞ。


「浦賀さん、手術の話は聞いておられますよね?」

「あー、村瀬先生ね!あの先生、若いけどいい医者だって噂で聞いて、私ってラッキーね!」

「あはは…ラッキーですねぇ…」


明るい癌患者だなっていうのが第一印象で、それは、彼女の退院の日まで印象は変わらなかったんだ。

逆にオレがその迫力に圧倒されて、元気を分けてもらう形になった。


「ねえ、先生?手術のときに一緒にこの脂肪もとってくれないかしら?」


そう言って、メタボリック気味な腹の肉をつまんでみせた浦賀さん、たぶん半分は本気なのだろう。


「そうですねぇ~。時々盲腸もついでに取っちゃう人もいますけど、脂肪はちょっと…」

「あらやだ!先生ったら、真面目に答えてくれるのねぇ~」


オレの腕をバシバシと叩いて豪快に笑った。
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