あおぞらカルテ
case02 52歳男性 急性心筋梗塞
「道重先生、今、手あいてます?」


いつもは物静かな大屋先生が、珍しく早口でバタバタとやってきた。

今日は当直。

夜8時、休憩をとろうとした時だった。

カップ麺にお湯を入れた瞬間だった。


「今救急に心筋梗塞が来てるので、緊急カテになりました」


あぁ…オレの晩飯が…。


「とにかく急ぎましょう」


救急部に走って行くと、そこは戦場だった。

大屋先生は先にカテーテルの準備に行っている。

オレは救急の手伝いだ。


「52歳男性、仕事帰りに胸痛あり救急要請されました」


胸痛あり?

全然意識ないんですけど…

顔色は青白く、呼吸は浅い。

…やべぇーーっ…!!!


「急いでカテに出るぞー!」


救急部の先生が声を張る。


「研修医、ライン取れ!」

「ん、は!?オレ!?」


こんな血の気がひいた患者さんの血管に針を入れろと!?

難易度レベル星5つの血管だぞ!

焦りながら血管を探していたら、後ろから蹴りを入れられてよろめく。


「遅いんだよ!どけ!」


…こえぇ~っ…!!!

大屋先生とは間逆の先生達に囲まれて怖気づく。

そうこうしてるうちに、患者さんの周りのスタッフは検査をしたり、カテーテルの準備をしたりと忙しなく動いていた。


「先生!カテ室の準備できたから搬送手伝ってください!」


結局、オレができたのはベッドを押すことくらい。

カテ室で待ちかまえていた大屋先生は、半泣きのオレを見て苦笑いしていた。
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