あおぞらカルテ
午後から仕事が片付いて、大屋先生から言われた。


「初当直おつかれさま。帰っていいですよ」

「ありがとうございました!」


大屋先生はまだ仕事をするらしい。

後ろ髪を引かれる思いはしたけれど、オレには別の仕事が残っている。

病院を出て目指す先は、大磯天満宮だ。

電車を乗り継いで1時間半。

親父の実家がある街だ。


「ああ、そらくん、よく来たね」


目をしょぼしょぼさせながら、じーちゃんは出迎えてくれた。


「父さんは仕事か?」

「うん、オレも今日は仕事だよ」

「なんだい、医者も出張があるのか?」

「そんなところかな」


じーちゃんは“就職祝い”と言って、3万円と図書券をくれた。

いいって言ったのに…。


「じーちゃんは孫が誇りなんだよ」

「大げさだって」

「孫が医者だなんて、近所に自慢したいくらいだ」

「父さんのがスゴイんだよ?海外の学会で発表したりもしてんだよ?」

「そうかそうか。で、そらくんも心臓外科医になるのかい?」


ドキっとした。


「…まだ決めてない」


ボソボソと言うと、じーちゃんは笑って言った。


「まぁ、じーちゃんに何かあったときはヨロシクな!」

「縁起でもないこと言わないでよ!?」


人の死を間近に感じているから、冗談だとしてもゾクっとする。

大切な家族が死ぬなんて考えたくもない。

じゃあ、水戸さんは…?

じーちゃんに手を振って、目的の大磯天満宮に向かった。

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