あおぞらカルテ
「先生、佐藤八重子さんのことなんですが…」


大屋先生をつかまえて、歩きながらショートカンファレンス。

いや、そんな大したことは話さない。

オレの思ったことを勝手にベラベラしゃべってるだけなんだけど。


「正直言って、心不全末期ですよね?」

「そうですねぇ」

「…なんだか辛いです」


だって、もう救う手立てはないのだから。

完全に元気になることはないのだから。

悪性腫瘍や白血病は、今はもう治る時代にはなってきているけど、心不全っていうのはなかなかスッキリ治るもんじゃないのだ。

必ず最後が来る。


「大学病院の適応ではないのかもしれませんね」

「…え?」


いつも患者さん思いの大屋先生のその言葉に、耳を疑った。


「大学病院は研究施設でもありますから、こうなってくると療養型の病院に転院という方向も考えなければならないかもしれません」


それって、薄情すぎないか!?

今までずっと20年間、この病院を信頼してきてくれているのに?

もう治せないって判断されたら、サヨナラ?


「道重先生?聞いてますか?」

「…聞いてます」


オレもただの熱血バカじゃないから、そういう世の中の成り立ちくらい知ってる。

そういう成り立ちのお陰で、うまく回ってるっていうのも知ってる。

診療報酬がどうのとか、まあ、そんなことも絡んでくるんだけど…。

でも、どうもスッキリしない。

これでいいのかな?って。
< 29 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop