あおぞらカルテ
大屋先生はきっぱりと言った。


「これ以上、心臓の機能を回復させることは、難しいと考えています。長期の入院となりますと、他の療養型の病院に転院していただいたほうが、八重子さん本人もゆっくり過ごせると思います」


八重子さんとご主人を向かいに、大屋先生、看護師長、そしてオレ。

治療方針について、説明室で話をした。

大屋先生と看護師長は、さも当たり前のように話す。

今までもそういう患者さんを診てきたからだろう。


「ですが、先生…」


ご主人が納得いかない顔をしている。


「八重子は…妻は、もうこれ以上よくならないんですか?」

「よくなる、よくならないの問題でいうと、残念ながら、それほど大きな回復は望めないと思います」

「そんな…」


あまりの重い空気に、どうも肩がこる。

ずっしりと何かが乗ってるみたいに。

癌の告知の場面もそうだけど、最近はストレートに言うのが主流なのだ。

あなたは癌です。では、どうしますか?って。


「皆様でよくご相談なさってくださいね」


黙りこくったご主人を前に、看護師長がそうまとめた。

どうもスッキリしない。

大学病院で診て欲しいと思ってる患者さんを、わざわざ追い出す必要があるんだろうか?
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