あおぞらカルテ
そんなの比べられるわけないじゃん。

里香のことだって大事だ。

でも…


「ごめん。今は“仕事”を選ばせて」


そう言った瞬間、里香の右手の平がオレの頬をかすめた。

じんわり頬が痛い。


「…っ、もう、終わりにしよ…?私、そらくんのこと待ってられないよ…」


白いワンピースの裾をひるがえして、里香は映画館を出て行ってしまった。

それでもオレは、その背中を追いかけることができなかった。

サイテーだな、オレ。

タクシーを停めて病院に向かうときも、一切の迷いなんてなかった。

オレは間違ってない。


病院について、白衣を羽織ったら、もう里香の事なんて考えてなかった。

患者さんのことで頭がいっぱいで。

とにかく、自分にできることをやった。

患者さんの容体が落ち着くと、一気に脱力感が襲って来る。


「…道重くん…今日って里香とデートじゃなかったの?」


里香の友達で同期の琴美ちゃんがコッソリと言いに来る。


「うん…そうだね」

「ゴメンね?どぉーしても菅野先生の電話が繋がらなくて…」

「ううん、連絡くれてありがとう」

「里香、今日が来るのを超楽しみにしてたのに…悪いことしちゃったね」
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