あおぞらカルテ
「おー、勉強してるねぇ」


食堂で救急医学の本をめくりながらカレーを食っていたら、向かいににやってきた男。

そいつは唐揚げ定食がのったトレーを置いて、俺の本に手を伸ばす。


「ふぅーん…熱心だねぇ」


なんか嫌な感じ。

こいつは確か、今日から救急で働く研修医のうちの一人。

名札を見ると、小畑聡って書いてある。


「道重くんてさ、あれ?心臓外科の道重先生の息子?」

「だったら何だよ?」

「いやー、さぞかしデキル研修医なんだろうなぁって思って」

「は?ケンカ売ってんの?」


小畑は軽く鼻で笑った。

そして、こう言った。


「べつに。俺、そういう二世みたいな医者が一番嫌いなんだよね。甘やかされて育ってきてるしさ」


完全にケンカ売られてるな。

ガツン、とスプーンをライスに突き刺して、一言二言反撃しようかと思った。

けど、やめた。


「…アホらし」


世の中色んな奴がいる。

こいつと関わるのはせいぜい救急研修中の3ヶ月だけだ。

どう思われようが関係ない。




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