あおぞらカルテ
結局、里香になだめられて早目に帰宅。

循環器内科診療の本を開いて勉強。

けど、治療拒否の患者の対応なんてどこにも書いてない。

何から始めたらいいんだか…?




「奈菜ちゃんってさ、陸上部?」


翌日、オレは作戦に出た。

題して、フレンドリー作戦。

そのまんま。


「何が専門?短距離?長距離?」


16歳ってことは、子供でも大人でもない微妙な年頃。

心のカベをぶち破れば、なんとかなるんじゃないかって。


「…なんなんですか?」

「せっかくだから仲良くなりたいなって思ってさ」

「研修医ってヒマなんですか?」

「…いや、暇じゃないよ!?この後もカンファレンスが控えてるし、奈菜ちゃんの治療方針についても検討することになってる」

「じゃあ、その準備でもしてきたらどうですか?私はとにかく、すぐにでも退院したいんで」


さぶーい。

オレって、けっこうモテるほうだよ?

自慢じゃないけどさ。

コンパでも人気者なんだよ?

あ、里香にはヒミツだけどさ。

だけど…こんなにキョヒされたのって初めてだ。


「でも、昨日も大屋先生が言ってたけど、治療しないと家には帰れないよ?」

「帰れます。もし不整脈が起きたら、そのときはそのとき」

「死ぬんだよ?死ぬの、怖くないの?」


そう言った瞬間、しまったって思った。

彼女の心は完全にバリケードを固めてしまったのがわかったから。

簡単に“死”って言葉を出すべきじゃなかった。

あーもう、どうしたらいいんだよ!?
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