朱家角(上海水郷物語1)
タイトル未編集

船旅

12月だと言うのに黄海は穏やかだった。
ゆるい消え入りそうな夕日が
静かに沈んでいく。

本庄浩一は12月になると雑貨の材料を
仕入れに大阪から上海に船で行く。

京都の嵐山で小さな土産品店を営む本庄は
幸いこの時期日程にゆとりがあるので

ゆっくりと船旅が満喫できるのだ。
1年の中で最も癒される2週間である。

旅の荷物は着替えとスケッチブックを1冊
持っていくだけだが、帰りはかさばりはし
ないがずしりと重い銀鎖4千本を背負う。

この時期の国際フェリーは乗客は少ない。
若者もいるが年配者が多いのは船旅ならでは
と思う。何人かの友人ができるのも楽しみだ。

スケッチは数年前から始めた。
鉛筆でラフスケッチをしてあとで
水彩を施すものだ。

船旅の時は必ずスケッチブックを持っていって
各地の風景をいくつか描いて帰る。

写真も撮りはするが写真から描いても
いい絵はできない。

現場ですばやくスケッチしたものにこそ
タッチに活力がある。

地元で趣味の会に誘われて入会はしたが
まだ1度も出品をしたことがない。

皆それなりにうまいのだ。本庄の
ラフ画など物の数ではない。

30人ほどの小さな会だが年に1回
作品展をやる。本庄は義理で毎年
顔出しだけは欠かしたことがない。
< 1 / 22 >

この作品をシェア

pagetop