朱家角(上海水郷物語1)
入選
「きれいな人じゃない?私やきもち焼きそうだわ。
特にあの瞳がいい。何かこう瞳の奥に執念のような
物がかいま見えて。ねえ、あのひと誰?なんて
野暮なことは聞かないから、絶対に秋までに完成
させてね、おねがい。この2作品を水郷朱家角
としてノミネートしておくわ」
「はあ、しかしまだ人物には全く自信が無くて」
「大丈夫、この私がついているから。
特訓よ、この半年で。絶対入選確実!」
本庄は自信なさげにうなづいていたが、
奥さんはタバコの火をもみ消すと、
「さあさあ特訓よ。人物は難しいんだから」
といって本庄を教室へ連れ戻した。
本庄は朱家角の理髪店のおかみさんの色づけは
しばらく後回しにして人物の水彩に力を入れた。
春のシーズンが終われば又店は暇になる。
裸婦も含めて人物画に果敢に挑戦した。
夏の終わりにやっと自信がついてきて、おかみさんに
色彩を施した。快心のできである。
放生橋からの景観と共に出品した。
フランスから帰国したばかりの友人も、
「これはすばらしい」
と推薦をしてくれた。
はたして、本庄の作品は予想通り入選し作品展で
展示された。100を越える出品の中から30点が
入選作として展示される。
1週間の展示期間中、毎日夜になると本庄は
会場に顔を出して鑑賞者の反応を楽しんだ。
最終日、そろそろ片付け始めようかという時に、
若いカップルが本庄の絵を見つめていた。
「上海水郷てのは分かるけど、この女の人のどこが水郷なの?」
本庄ははたと胸を突かれた。
『そうか、朱家角は水郷と女性の姿が合体しないと
完成は無いのかもしれない』
本庄は決心した。何が宿命なのかはその時分からなかったが。
『この冬、水郷を背景にあのおかみさんの肖像画を描こう。
水郷に生き抜く宿命の中の真実の眼差しを描くのだ』
特にあの瞳がいい。何かこう瞳の奥に執念のような
物がかいま見えて。ねえ、あのひと誰?なんて
野暮なことは聞かないから、絶対に秋までに完成
させてね、おねがい。この2作品を水郷朱家角
としてノミネートしておくわ」
「はあ、しかしまだ人物には全く自信が無くて」
「大丈夫、この私がついているから。
特訓よ、この半年で。絶対入選確実!」
本庄は自信なさげにうなづいていたが、
奥さんはタバコの火をもみ消すと、
「さあさあ特訓よ。人物は難しいんだから」
といって本庄を教室へ連れ戻した。
本庄は朱家角の理髪店のおかみさんの色づけは
しばらく後回しにして人物の水彩に力を入れた。
春のシーズンが終われば又店は暇になる。
裸婦も含めて人物画に果敢に挑戦した。
夏の終わりにやっと自信がついてきて、おかみさんに
色彩を施した。快心のできである。
放生橋からの景観と共に出品した。
フランスから帰国したばかりの友人も、
「これはすばらしい」
と推薦をしてくれた。
はたして、本庄の作品は予想通り入選し作品展で
展示された。100を越える出品の中から30点が
入選作として展示される。
1週間の展示期間中、毎日夜になると本庄は
会場に顔を出して鑑賞者の反応を楽しんだ。
最終日、そろそろ片付け始めようかという時に、
若いカップルが本庄の絵を見つめていた。
「上海水郷てのは分かるけど、この女の人のどこが水郷なの?」
本庄ははたと胸を突かれた。
『そうか、朱家角は水郷と女性の姿が合体しないと
完成は無いのかもしれない』
本庄は決心した。何が宿命なのかはその時分からなかったが。
『この冬、水郷を背景にあのおかみさんの肖像画を描こう。
水郷に生き抜く宿命の中の真実の眼差しを描くのだ』