朱家角(上海水郷物語1)

放生橋

この運河の北のはしに中国と西洋の
建築を融合させた農村主体の課植園
という植物園が有る。

霧雨の中、園内の庵でしっとりとした
冷気を感じながら、自分は今一体何を
しているんだろう?と考えたりする。

数千年の昔から長江の度重なる大洪水
にもめげず生き抜いた古代人達。数々の
遺跡が幾層にも重なった古い地層から
最近発見されている。

眼を閉じれば春秋呉越の時代から六朝、
南宋、明、清へと。近代の日中戦争に
内戦、文革と悠久の歴史を深呼吸すれば

じっと奥底に感じる。眼を開けて再び
庶民の営みを見つめるならば、
そこには不変の人情を感じる。

本庄は歩きつかれてこの夜はぐっすりと
眠った。翌日、曇りではあるが薄日も
さして何とかスケッチができそうだ。

この朱家角には絵になりそうな箇所が
幾つかある。朝早めに本庄はスケッチ
ブックを持って放生橋へと向かった。

まだ8時半だというのにもう金魚売が待ち構えていた。
船着場の公園に腰をかけて放生橋をスケッチする。
時折団体客が通る。シーズン中はひっきりなしに

中国各地や外国からの観光客が押し寄せるのだろうか?
船着場のおじさんに聞いてみると、
「そりゃもうメニメニピープル!」

と英語で返事が返ってきた。

放生橋は5つのアーチになっていて、
石段は幅広からゆっくりとした傾斜で
上に行くほど狭まっている。

頂上からの景観はこれぞ水郷という感じなのだが、
とてもスケッチどころではない。
何枚か写真を撮って、北大街、途中の小橋、

課植園の運河とスケッチをして歩いた。
明日は上海どまりで翌日は出航だ。
今晩は早めに寝て明日は6時ごろに

放生橋に行ってみよう。
この日も歩きつかれてぐっすりと眠った。
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