君と杯を交わそう ~契約婚から築く愛~
そして、通された先には陵のご両親とお兄さん、その奥様、高校生の妹がいた。

「その方が婚約者か。陵」
「そうですよ。響(キョウ)」
「はじめまして。橘紫苑と申します」
「お座り下さい。橘さん」
「はい」

陵の両親と対峙すると、この家族の中に入ることの恐怖が紫苑の中に浮かんでくる。だからか、自然と背筋がピンとする。

「…紫苑さん」
「はい」
「佐伯家に嫁ぐことの意味、分かっていらっしゃるのですか?」
「母さん!」
「陵。黙っていなさい」


出会ったばかりの男。佐伯家のことなど、何一つ知らない。紫苑は今の気持ちを素直に伝えた。


「私は佐伯家のことは何一つ分かりません。だけど、陵さんと一緒にいる為に必要なことは身につけていきたいです」

何を言われるのか、反対されるのか。紫苑は不安ばかりが募る。

「紫苑さん。貴女には佐伯家のことなど何一つ、お願いしません。それは、ここにいる美咲さんも同じです」

美咲と呼ばれた兄・響の奥さんは丁寧に一礼する。

「私が奥さんにお願いしたいことは、ただ1つだけです。息子達のケアをしてもらいたいのです」
「ケアですか?」
「そうです」

陵さんのお母さんが言いたいことはきっと、私に専業主婦になって欲しいということだろう。けれど、紫苑は周りが仕事を続けてきていることもあって、そんなことは一度たりとも思ったことがなかった。
< 32 / 48 >

この作品をシェア

pagetop