君と杯を交わそう ~契約婚から築く愛~
答えることが出来ないまま、紫苑は陵が住んでいたマンションへと帰ってきた。ここが、二人の新たな住まいとなる。

「紫苑」
「何?陵」
「母さんが言ったことは気にしなくていいから。紫苑の両親に言った通り、仕事を続けたいのなら続けて貰って構わない」
「陵さんは、どう思っているんですか?」
「俺は紫苑の好きなようにして貰って構わない。紫苑の両親に言ったことが本音だし、母さんがああ言うのは分かっていた。だから、嫌いなんだ。あの人は」


突如、発しられた親を侮辱する言葉。紫苑は驚きながらも、その意図について尋ねた。

「SAKIのことが一番大事なんだよ。俺ら子どもよりも」
「陵達よりも…」
「でも、そうだろうな。俺ら子どもは、反発するけど、会社の人間は誰一人として反発しない。だから、嫌いなんだ」


何度も嫌いと呟く陵。それでも、尊敬してるのか、愛しいと思っているのか、心の底から嫌っていないのが分かる。

「まあ、この結婚も偽りだし、今の時代、再就職は難しいだろうから、辞めなくていいよ。その方が俺も気が楽だし」
「分かりました。結婚して辞めるなんて考えたことがなかったので、良かったです」


母親のことを話していた時の陵と違って、笑顔を見せる陵を見ていると、辞めなくても良いのだろう。

「あ、陵」
「何?」
「純哉さんのご家族ってどんな人ですか?」
「純哉は…」


~紫苑&陵side~
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