君と杯を交わそう ~契約婚から築く愛~
結婚しても続ける人が多いからだろうか。杏莉だけでなく、紫苑先輩や珠洲ちゃんもいるからだろうか。忙しさもあるのか。

「おめでとう」と言ってくれるだけで、真司のことを聞いてくる人は誰一人としていなかった。

お昼休み。杏莉はお昼を済ますことなく、真司の勤務先である学校へと向かった。

「すみません。西森さんと約束してるんですが」

さすがは、有名進学校。入口には守衛さんが立っていて、杏莉は真司に言われたとおり、守衛さんに声をかける。
職員室の場所を聞き、職員室へと向かう。

「失礼します」

職員室には数人の教師がいるものの、真司の姿はない。

「どちら様ですか?」
「西森真司の妻です。忘れ物を」
「西森先生の。西森先生は、今、授業中ですので、しばらくお待ち下さい」
「はい」

忙しさもあって、母校には一度も訪問していない杏莉にとって、学校という場所も職員室も懐かしさがある。
チャイムが鳴り、職員室に教師が集まってくる。真司の姿を見つけると、少しだけ、緊張が緩む。

「真司さん」
「杏莉。ありがとうね」

真司がお弁当を受け取ると、待ってましたとでも言うように他の教員が杏莉に様々な質問をする。
真司に対する想いや仕事のこと、生活のこと。杏莉自身は、真司に愛を持っていることもあり、思っていることを伝えていく。

「杏莉。ご飯、食べたのか?」
「まだです。一応、持って来たんですけど」

そう言って、真司が作ったお弁当を取り出す。

「これ、奥さんが作ったんですか?」
「え?」

声の方に目を向けると、真司のお弁当を勝手に開けている同僚達。

「勝手に開けるな」
「いいじゃないか。減るもんじゃないし」
「ったく。それは俺が作ったお弁当だ」
「え!?」

同僚達だけでなく、そこにいた教員が真司を見る。

「これ、西森先生が作ったんですか」

キラキラした目を向ける女の先生達。

「そうだよ。杏莉も仕事してるから、俺が作ったりもしてるんだ」
「優しい旦那さんですね」

真司の性格など、殆ど知らない杏莉。弁解の一言も言えないまま、真司のお弁当に目を向ける。

「もう、いいだろ。杏莉、お昼まだなんだろ。一緒に食べよう」

真司はお弁当を取り上げて、杏莉が持っていた鞄と共に職員室を出ていく。その後を残っている教員に一礼してから杏莉は真司を追う。
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