君と杯を交わそう ~契約婚から築く愛~
真司に連れて来られた場所は、入口にほど近い広い庭みたいな所だった。

「じゃあ、食べようか?」
「あ、はい」

職員でも生徒でもない杏莉がここにいて、お弁当を食べていいのか、戸惑いながらも口に運ぶ。

「美味しい。凄いですね、真司さん」
「良かった。でも、凄くはないから。早く食べないと、時間が無くなるよ」

時計を見ると、1時を指している。お昼休憩が終わるまで後、30分だ。杏莉は、急いで食べながら。自分がここで食べていてもいいのか、尋ねる。

「ここには、教師しか来ないから。たまに、奥さんとかと一緒に食べている教師もいるしね」
「どうして、そんなことするんですか?」
「婚姻届だけじゃ、信用出来ないから…かな。役所には確認しないし、ある意味自己申告状態とも言えるんだけどね」
「そうなんですか」

そんな風なら、そのルール等無意味のように感じるけれど、それがここのやり方なのだろう。

「食べ終わったみたいだね。戻る?」
「はい。ありがとうございます。お弁当」
「いや、こちらこそ。って、変な感じだよね。一応、夫婦なのに」
「ですね」

遅くなるという真司のお弁当も一緒に持って、会社へと戻る。その様子を教頭が見ていることなど、杏莉も真司も知るはずがなかった。
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