君と杯を交わそう ~契約婚から築く愛~
それから、いつも通りに仕事をして二人が過ごすマンションへと帰ってきた。
今はまだ、誰もいないけれど、真司が帰ってくることがわかっていることもあって杏莉にも笑みが浮かぶ。

けれど、7時を過ぎても真司は帰って来ない。 真司を想って作った晩御飯も既に冷めてしまった。

「ただいま。杏莉?」

真司が帰宅したのは間もなく8時になろうとしている時だった。
お風呂に灯りが灯されているのに気付いた真司は脱衣場を覗く。

「ただいま。杏莉」
「お帰りなさい。ご飯、待ってて下さい」
「大丈夫だよ。というか、入ってもいい?」
「だ、ダメに決まってるじゃないですか!」
「残念。一応、夫婦だからいいかなと思ったんだけど」

少し笑みがいつもの笑みとは違う。何かを考えているのだろうが、それが何か分からない。

髪にドライヤーをかけずにキッチンへと向かうと、真司がおかずをレンジにかけている所だった。

「髪、まだ濡れているじゃない。ちゃんと乾かしておいで」
「でも…」
「風邪ひかれたら困るのは、俺。それに準備くらい、俺でも出来るよ。出来ないとでも思ってる?」
「そう言うことでは…」


元々、ここは真司の家。真司の言うとおり、準備なら真司一人でも出来るはず。杏莉は、髪を乾かす為に脱衣場へと向かう。

ドライヤーをかけ、髪を乾かすと、杏莉はキッチンへと向かう。そこには、杏莉が作った様々な料理達が湯気を立たせている。

「それじゃあ、食べようか?杏莉」
「はい」

待たされたからだろうか、それとも真司と一緒に食べているからだろうか。いつもよりも美味しく感じる。
そんな日常に幸せを感じながらも、終わりがあると思うと落ち込んでしまう。もちろん、そんなこと真司には気づかれないようにしているけれど。
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