薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~
それはこの少女をどのようにして家まで届けるか。
おそらく彼女の家藤岡家では、少年の家櫻澤家のことをあまりよく思っていない。それなのに少年がのこのこと少女の抱きかかえたまま家を訪れたら、藤岡家の当主である少女の母親は苦々しい思いをするだろう。
当主が自分の家と敵対心を抱いている家の子供のことなど把握済みだ。だからこそ少年はどうすればことがうまく進むか考えていた。
こっそり入ればばれないが、侵入に気付くかもしれない。物腰を柔らかくして家へ訪問しても何しに来たという視線が突き刺さる。
これほどにも少女の家と敵対しているにはいろいろと理由があるのだが、今は知らせるわけにはいかない。まぁ、何時か分かるときが来るだろう。
少年が暗い夜道を歩いていると、周りの家とかなり離れた木造の大きな屋敷へと辿りついた。
門には櫻澤と筆によって書かれた木の板大きく掲げられていた。それによってより古風を感じさせる。
少年は押すような形で門を開け、入っていく。
白い石が敷き詰められた庭をとおり、みやびやかな松、藤岡家の象徴を風で靡く季節外れの藤の木を横目に通り過ぎる。そして前に立ちはだかるは引き戸式の扉。扉の横には違和感を感じさせる白いインターフォン。
これを押せば起きている誰かはたまた押したことによって起きてしまった誰かが出てくることだろう。
そんな誰かが少年の姿を見てどのような反応をするのか少年は想像し微かに笑った。
それは少年が自分自身に向けた嘲笑のようにも取れる。
少年は意を決し、白いインターフォンを押す。
ピーンポーン。