薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~
「理事長だよ。だがこれは理事長が俺を思ってやったことだし…櫻藤家の人間を殺すのはまずい」
口に出してしまった。別に裏切ったわけではない。確かに母を恨めしいと思ったこともあるが、今更だ。
櫻藤という名を出したのが良かった。
静寂が俺へ向けていた殺気めいたものも消えたし、痛めつけるために愛用の小刀を研ぐ姿は見当たらない。
まあ当たり前か。櫻藤というのは櫻澤と藤岡の両方の名字から1文字ずつ取り、誕生した中立の家。彼らは面倒な事後処理、諍いが起きた時の仲裁役として活躍する、大事な家。その家の者に傷などつけたら、彼らが敵に回ってしまう。悪いことしか起きないだろう。
「そう。
では結斗様、外は冷えますし、怪我に悪いわよ。早く入って寝て。夕食は私が作るから」