薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~



平静を装い常時笑顔をたやさない彼だったが、紅華という名を聞いた瞬間微かに目と眉が動いたことを私は見逃さない。同時に自分の口にした言葉に驚きを感じていることも微かに表れた表情でとらえる。


それもそうか。彼は自分が理事長から聞いたこの情報を知っていることなど知らないのだから。きっと彼の頭の中では私がいったいどこでこの情報を取得したのか、考えていることだろう。故の沈黙。問いかけた私がこの沈黙をけ破るには些か不自然だ。だからこの空間を破るのは彼でなければならない。



「って、ことは理事長―――いいやここでは櫻藤家当主とさせてもらうよ―――に聞いたんだね。紅華兄さんのことを」



「うん。だから力になりたい。結斗君がやろうとしていることに協力したい」



そう言われて度肝を抜いた表情を浮かべる結斗君。それにより彼が抱いている気持ちが分かる。恐らく驚きだろう。
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