薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~


初めに仕掛けてきたのは兄の方である。人間と同じ体のつくりをしているならばありえないであろう口から触手を伸ばしてきたのだ。紫音も静寂もいるというのに迷いもなく自分を追いかけてくる。それの中に少しでも存在するであろう血を感じているからなのだろうか。それは良く分からぬ。何本にも及ぶ触手全てが自分へと向かっているというのに全てにおいて避けられる姿は哀れに見えよう。しかしながら彼の動きは一定で、規則性があるため予測を立てて動きやすいのだ。こんなのでは捕まるものも捕まらない。そう、このように。


と、ここで少しは学習したのだろう。全ての触手を絡ませ素早い動きで自分へ向けて来るかと避けてみれば、非常に細いたった1本だけを分担させ俺が行こうとしていた先から襲ってきたのだ。だがそんなことなど自分には通用しない。薄紅華の葬ではなくもう一振りの刀を取り出し、もったいぶらずに斬る。そうして着地。



「兄さん、触手だけでは私を倒すなど到底無理ですよ。私だって兄さんが妖達を喰らい吸収している間に訓練に訓練を重ね、多くの人の技術を吸収してきたのですから」



もちろんこれは挑発である。思慮深く、失敗時の最善策をいくつも考えてからでは動かない兄ではあったが、今の兄は前の兄とは違うと考えたほうが良い。なんせ陰の気に侵され、妖としての歴を重ねに重ねている。妖としての性質が出てきても良い頃合いであろう。そう、獲物を狙うのを生き甲斐としている故に単細胞となってしまうという性質が。
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