薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~


彼女の手は非常に温かい。その手からさらに優しく温かい光が発せられる。これが噂の藤岡家秘伝浄化の能力。まさか間近で見ることになるとはついぞ思わなかった。


優しかった兄。昔、彼は学校へ行くのは楽しいと言った。もし妖退治などに関わらぬ生活をしていたら、きっとあのような暮らしが毎日、毎時間繰り広げられていただろうからとも。彼は誰よりも日常と非日常を大切にしていた気がする。故に日常となる学校にこだわり、楽しいとも、大切だとも言ったのだ。そうしていつも結斗だって大きくなれば分かる時が来るだろうとも。結局、中学生となっても学校に中々通わぬ日々の方が多く兄の言葉を理解する日は来なかったのだが。きっとこれからも理解できぬであろう。


最期はその学校で死していくのだろうと思っていた。けれど死に場所は学校でもない、特に思入れも無い山。もしかしたら知らぬところで兄にとってここは特別な場所だったのかもしれない。が、それも今となっては分からぬ。


考えれば考えるほど思いが流れ出してきりがない。結局は好きだったのだ、兄という存在が。そうして残っていたのだ、彼が自分へ残していった言葉が。
その言葉を噛みしめ、兄の命は薄紅の花弁と共に散った。
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