シャクジの森で〜番外編〜
一方、寝室に戻ったアランは、すぐにテラス側の窓を開け放ち、壁に掛けてある剣を手にした。

目を瞑り心を静めて仮想の敵を想定し、剣を振り下ろす。

ヒュンヒュンと音を立てて閃く剣の切っ先が、縦に横に静寂な空気を切り裂いていく。

流れる汗が動く度に飛び散り、さらりと動く銀の髪が射し込む朝日に煌めいた。


軽く息を弾ませ、心地良い汗をたっぷりかいた頃、アランは剣を元に戻してシャワー室に向かった。

静かな朝の部屋に水音が微かに聞こえてくる。


暫くの後、タオルで髪を拭きながら出てきたアランは、壁に掛けられた時計を見やった。


―――もうそろそろだな・・・。


大きな姿見の横の棚には、今日着る服がきっちりと準備されている。

これは前日の夕方にメイドが準備しているもの。

アランはいつも通りにそでを通し、長い後ろ髪を一つに束ねた。

寝室の扉を開けると、早速警備兵が駆け寄ってきて頭を下げた。


「アラン様、おはようございます」

「御苦労―――変わりはないか」

「はい、変わりは御座いません」

「・・・メイはいつも通り参っておるか?」

「はい、いつも通りで御座います」

「良い―――御苦労」


白い扉の前には、シリウスが立っている。

アランが近づいていくと「おはようございます」と丁寧に頭を下げた後、いつもの通りにコンコンとノックをした。

暫く待つと、部屋の中からパタパタと走るメイの足音が近付いてくる。


『はーい、アラン様どうぞ」


白い扉が動き、キィと小さな音を立てた。

それが開ききる前に、スルッと通り抜け、アランは部屋の奥まで急いだ。

ベッドの前を通り過ぎるとブルーの瞳に映るのは、四角い小さな窓の脇、鏡の前に座っている美しく清楚な姿。

ついさっきまで腕の中に抱いていたのが嘘のように、愛しくて恋しくて堪らない。


「エミリー、おはよう」


手を差し出すと、いつも通りにか細い指がそっと乗せられた。


「おはようございます。アラン様」


立ち上がった身体をそっと引き寄せ、すっぽりと包みこんだ。

潤んだアメジストの瞳が見上げてくる。


さっき我慢した分も、想いを込めて、唇を甘く塞いだ。


いつもと違うな・・・?元気がない。


アランは、腰をぎゅっと引き寄せ、少しの変化も見逃さないようにアメジストの瞳をしっかりと捕らえた。



「エミリーどうした?元気がない。具合が悪いのか?」
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