シャクジの森で〜番外編〜
にこにこと手を振りつつ、出口に向かうサリー。

間際に立つパトリックに対し、居住まいを正し丁寧に頭を下げた。


「私なんかを通してくれてありがとう。アンタは、噂どおりの優しい方だね」

「・・・私は、皆が言うほど優しくはないよ。当たり前のことをしているまでだ」


「それが凄いと思うんだけどねぇ。アンタみたいな高貴な人なら、なおさらだよ。もう二度と会うことはないだろうけど、優しくしてくれてありがとう。じゃ、さよなら」



手をひらひらさせてサリーは歩いて行く。


「あ・・・っと、待ってくれ。外は物騒だ。私が、送るよ」


「送るって、アンタ。・・・いいよ、すぐそこだし・・・困るよ」



こんな扱いを受けるのは初めてなのか、急な申し出に対し、うろたえ、しどろもどろに声を出すサリー。

出口近くで二人の距離が、ツ、と縮まる。

逃げるサリーを追うパトリック。

素早く前に回り込み、手を差し出し、通さないよう陣取った。



「いや、ダメだ。女性を送るのは男の役目だからね。それに、さっきの件もある。女性が危ない目にあうのを見るのは、二度とごめんだ。すまないが言うことを聞いて貰うよ」


まったくもうっ、いいって言ってるだろ、と弱々しく声を出し、その細い身体を利用し、パトリックの脇をさっとすり抜けるサリー。

パトリックは、まったく、何を言ってるんだ、と呟き、その後を追いかけた。

ボードの向こうから二人の会話が聞こえてくる。



『もうっ、いいって言ってるだろ』

『君は、わりと強情なんだね。全く、仕方ないな』

『あ、な・・・アンタ、何をするんだい・・・もうっ』



二人が消えた方を見つめ、サリーさんったらやっぱり可愛いわ、と呟き、ふふと笑い声を漏らしたエミリーが振り返る。


「アラン様、わたしたちも帰りましょう。きっと、料理長さんや給仕さんたちが美味しいお食事を作って、首を長くして待ってるわ」

「そう、だな。帰らねばな。・・・だが、その前に。エミリー、何かひとつ忘れてはおらぬか?」


このために、私は帰城せず、ここに留まっていたのだが。


「忘れて・・・?あ・・・っ!」


怪訝そうな表情が見る間に変わり、両手で口を覆う。

このようにあたふたと慌てふためく様は、何度見ても愛らしい。

少々の悪戯心が湧く。


「そうだわ――――どうしようかしら。アラン様、お店はまだ開いてますか?」

「開けておくよう手配しておるが、どうする?私としては、早く君を安全な城に連れて帰りたいのだが。君の申す通り、料理長たちも待っておることだし」


手を握り腰を引き寄せ、このまま帰るぞと囁き、出口へと誘う。


「待って。開けておく・・・?大変!もちろん行くわ。それから、えっと・・・えっと――――サリーさん!待って!」
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