シャクジの森で〜番外編〜
「王子妃様、これの、この色はどうだい?これならどちらが出てきても構わないよ」
「そうで御座いますね。サリーの言う通り、こちらは柔らかく肌にも優しく、ご所望のものに最適かと存じます。どうぞお手に取ってご覧ください」
理容店から出る寸前のサリーを捕まえることに成功したエミリーは、一緒に選んで欲しいと頼み、買い物に付き合ってもらっていた。
サリーも、こういうことは女性にしか分からぬからと
「少なくとも、お二人には分からないね。分かった、アドバイスなら任しといて。こう見えても、私、何度か触ったことあるんだよ」
パトリックと私を交互に見て自慢げに申し、ふふふと自信ありげに笑った。
その言葉通り、先ほどから店主とともにいろいろと意見を申しておる。
時々笑いを交え楽しそうにしている様は、見ていて大変心和む光景だ。
突然サリーがこちらを振り返り見て、ここに来てよ、と合図を送ってきた。
「ここにいなよ。私も買いたいものがあるんだ。あんなことあったし、誰かが傍にいないと不安なんだろ?それに、王子妃様、すごく迷ってるからさ。一緒に選んであげなよ。こういうのも、夫の役目のひとつだよ」
そう小声で申し、にんまりと笑うと棚の向こうに消えていった。
―――・・・こういった物はよく分からぬが・・・。
「エミリー、決まったか?」
背後から声をかける。
「迷ってるの。どれにしようかしら」
エミリーの前にショーケースがある。
その上に柔らかな色合いの商品が並べられている。
すぐ脇にある背の高い棚から出されたものだ。
そこには濃い目の色合いのものも収まっているが、出されているものはパステルカラーが中心だ。
目的の物には濃い色は似合わぬということか。
出されている物をまじまじと見つめる。
一本の紐から繊細な毛が方々に伸び、くるくると丸く纏められたそれは、見た目にはほわほわとしておるただの毛の塊にしか見えぬ。