シャクジの森で〜番外編〜
すっかり闇に染まった市場通り。

噴水広場の屋台店も幕を閉じ、冷たい夜風に身をすくめた人が急ぎ足で開いている飲食店に吸い込まれていく。

人がまばらになり、時刻通りに止められた噴水から雫が垂れ、ぴちょんぴちょんと寂しげな音を立てる。

昼間、道を埋め尽くした人々の脚が消えてしまい、むき出しになった石畳が二つの月明かりに照らされ、寂しげに艶々と光る。


閉店準備を始めた大通りの店主たちが、カーテンを閉めたり看板を仕舞ったりする中。

西通りの外れの店先には一つの人だかりが出来ていた。


向かい合う二人の女性を囲むようにして並ぶ6人の男性と、周りの店の店主や店員たちと、数人の体格のいい男たち。

エミリーの後ろにはアランとパトリックが立ち、レオナルドはサリーの後ろに立っている。

その後ろには爺が控えめに立ち、市場警備の二人は通りの方を向き、集まってきた人々に鋭い瞳を配っていた。



少し離れた場所にはエミリーの白い馬車が停められている。

不思議に思い、御者に尋ねるとこう申した。



「レオナルド王子様に、西通りに着けるよう命じられました」



道理で、暫く姿を見なかったはずだ。

レオに礼を申すと、不機嫌そうに眉を寄せた。

「席を外した理由はそれだけではない、ついでだ。礼なら要らん」



中央の二人に目を向けると、サリーは名残惜しげにエミリーの手を握っていた。



「王子妃様、あんなことがあったし、無理にとは言わないけど。また、遊びに来てよ。護衛の人、ずらーっと、この道を埋めるくらいに、沢山連れて来て構わないからさ」

「えぇ、また来るわ。わたしもサリーさんに会いたいもの」

「そうそう、あの話もしないといけないしねっ」



すっかり仲良くなった二人。

楽しげな声を出し、見つめ合い、にこにこと笑い合う。

それを横目で見つつ、レオに再び声をかける。



「レオ、書状の件だが」

「あぁ、これでは、無効だな。そう言いたいのだろう?」

「あぁ。だが、どの道最初から無理なことではあった。朝より予想外のことが起きすぎたゆえ」

「・・・朝から、なのか?」

「そうだ。エミリーの行動は想像を超える。それに付随し、私も、だ。いくら君でも当てられぬ」

「そう、か」

「これから帰国するのか?城に来てもかまわぬぞ。もてなす故」
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