シャクジの森で〜番外編〜
馬車は長い城壁の続く道をゆるゆると進む。

心地よい揺れにエミリーの瞳がとろんとし始めた。

肩を抱き寄せ、柔らかな髪を耳にかけ頬に触れる。


「眠いのか?もうすぐ城に着くゆえ・・・」

「は・・い・・・」


返事をした後、こてんと頭が預けられた。


「エミリー、今眠ってはならぬぞ?」


長い睫毛が涙袋を覆い隠す。

頬に触れ親指で唇をなぞると、ん・・・と呟き身動ぎをするが睡魔には勝てぬらしく、預けられた身体の重みがゆっくり増していく。


やがて馬車は、城門を潜り馬車道を進み玄関先に辿り着く。

報せを聞いていたのか、数人の者が整列し待っているのが見える。

エミリーは心地好く眠っておるが、仕方あるまい。

頬を撫で肩をそっと叩く。


「エミリー、起きよ」

「ん・・・」

「皆が待っておる。元気な顔を見せ、王子妃らしく挨拶をせねばな?」

「ん、アラン様・・・」

「良いか?目を覚ませ」


瞼にそっとキスを落とすと、アメジストの瞳がゆっくり開いた。


「・・・ごめんなさい。わたし、眠ってしまったのね」

「皆が君を待っておる」

「はい」



はにかみ微笑む額にキスをし、先に馬車を降りる。

乗降口に立ったエミリーの手を取りエスコートし、皆の元に連れて行く。

頭を下げ、い並ぶのは、ウォルター、ジェフ、フランク、料理長、侍女長と数人のメイドと使用人、そしてメイとナミ。



「お帰りないませ」

「ただいま、戻りました。メイ、何も変わりはありませんか?」


「エミリー様。変わりはありませんか、じゃありません!お忍びで出かけられるなんて、私はどれだけ心配したか。・・・・良かった、ご無事で。帰城されたウォルター様からお話を伺ったときは、もう、心臓が止まるかと―――アラン様、助けて頂いて本当にありがとうございました」



声を絞り出しそこまで申すと、空色の瞳からはらはらと涙がこぼれ落ちる。

顔を覆って泣く姿を見、すかさずジェフが歩み寄り肩をそっと抱いた。



「メイ、心配かけてごめんなさい。皆さんもご心配をおかけしました。この通り怪我もありません。ウォルターさんも、ご苦労様でした」



微笑みながら見廻すエミリー。

無事だったことに安心し、硬かった皆の表情が次第に緩んでいき、微笑みに変わる。



「御無事で何よりです。ところで、気を失われたとのことです。一度診察をしたいのですが。王子様、宜しいですか」


「そうだな。エミリー、フランクの診察を受けるが良い。私は父君のところに参るゆえ・・・ウォルター、コレを頼む」


手荷物を託し、政務塔の中へと向かう。

休暇中とはいえ、いろいろと、報告をせねばならぬ。
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