シャクジの森で〜番外編〜
謁見室の扉を開け、前に進み出て跪く。



“私は、鼻の下を伸ばす君を見損ねたな”



「父君、只今帰城致しました」

「アラン、忍びはどうであった?愛しい者を一人で守りきるのは大変だったじゃろう?ましてや、エミリーは特別だからのう」

「まこと、お言葉通りです。ですが、ウォルターを始め数人の者に助けられました。最後はレオナルド王子にも」




“婚儀以来、君は未だ休暇を取っていないと聞く”




「レオナルドか・・・彼は身軽と聞く。アラン、良き友を持ったのう」

「はい、まことにそう思います」

「今回の件は違う目的が絡んでおろうが、な。して、例の件はどうじゃ?」




“新婚なのに、彼女が寂しがるのではないか?”




国王の瞳が悪戯っこい光りを放つ。

いつも無表情で冷静な息子。

それが事エミリーに関することになれば、ブルーの瞳が表情豊かに語ってくる。

父親ながらも、滅多に見られない豊かな表情を観察するのは少し楽しいことだ。

問いかけたところ、案の定ブルーの瞳が少し揺れる。





“やはり、君には彼女を任せられないな、と思う”




「・・・あの件は、無効となりました」

「そうか、良かったのう。レオナルド王子は手強い。しかし、なかなかに面白い書状であった」

「父君、御冗談を・・・」

「いや、レオナルド王子も相当な熱を持っておる。察するに、書状とともに入国したのじゃろう。そなたも気が気ではないな?」



サリーの笑顔が頭を掠める。

きっと、このようなときに使用するのだろう。

―――全く・・・父君までも仰るか―――



「はい、まことに・・・ヤキモキ致します」


微笑んでいた国王の表情が怪訝そうなものに変わる。

眉を寄せ、暫く考えた後アランを見た。


「アラン・・・その、ヤキモキ、とはなんじゃ??」





“君に彼女を楽しませることが出来るか?”




国王にヤキモキの説明をし、例の犯人のこととサディル国への対応を少し話した後医務室に寄った。

一瞬眼鏡をギラリと光らせたフランクが、急いで近寄り頭を下げた。


「王子様、後程伺うつもりでおりましたのに」

「良い。フランク、どうであった?」

「はい、王子様。どこにも異常は見られませんでした。傷一つございません」

「そうか、ならば良い」



ホッと安堵の息が漏れる。

もし傷があったなら―――と、考えると自らが怖い。



「もう、お部屋に戻られております」

「遅くまで御苦労であった。早く休むが良い」


フランクに労いの言葉をかけ塔への廊下を進む。





“どうだ?―――もし、君の行動をすべて当てることが出来たら――――”
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