シャクジの森で〜番外編〜
政務塔から塔へと続く渡り廊下を進む。

白亜の塔の壁に月明かりが当たる。

雲一つない澄み渡った夜空に数億の星が瞬き二つの月が輝く。




“―――そうしたなら、私に、ひとつ、褒美をくれないか”



褒美、か。

今日私は、君の夫らしく出来たであろうか。

思えば、私の我儘ばかりを聞いて貰った気がする。

ふと不安になる。

君は今日楽しんでくれたか?と。



3階の白い扉。

この中に君がいる。

開けるとふわりといい香りが漂い、ほんわりとした空気に包まれる。

奥のソファに座る愛しい者。


波打つ艶やかなブロンドの髪。

華奢な腰に程良く丸みを持つ女らしい身体。

か細く白く美しい腕。

瞳に映すだけで焦り騒ぐ心が静まっていく。

君がそこにいるだけで、私の世界はこんなに優しく柔らかなものになる。

私に数々のときめきと潤いをくれる。

情けないことに、私は、こんなに君を必要としておる。

君を、失いたくない――――



「エミリー、何をしておる?」


手には本を持ち、テーブルの上には本日購入した物が整然と並べられている。


「今、作り方を勉強していたんです」

「初めて、なのか?」



後ろから腕の中に閉じ込めつつ本を覗き込む。

捲られているページには小さな小さな靴下と手袋と帽子が描かれている。

あの塊からコレが出来るのか。

リリア、確か仕立屋の従業員だったな。



「いいえ、別の物は作ったことあるんですけど、こんな小さなものは初めてで。上手く出来るかしら。それに、リリアさん喜んでくれるといいけれど」


「大丈夫だ、きっと喜ぶであろう・・・」


「あ、アラン様?今日はありがとうございました。アラン様と過ごせてとても楽しかったわ。おまけにサリーさんともお友達になれて、とても素敵な一日でした」


自分を閉じ込めている腕に触れ、身体ごとこちらを振り返り見て、楽しげな声を出すエミリー。


「そうか、楽しかったか」

「ね、ほら、サリーさんのケーキ。見て、とても美味しそうでしょう?今から少し食べますか?」

「いや、明日で良い」



何を見せられても、私には君しか目に入らぬ。

早く君を食べたいと、思う。

髪をかき分け首筋に唇を落としていく。

耳から下に向かって唇を這わすと柔らかな身体がぴくんと反応し、本を持つ手の力が抜けていく。
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