プラチナ・ラブ

学園長室を出ると、矢田さんが微笑みながら立っていた。


「矢田さん……」

「本当に……大きくなられましたね」


矢田さんは少し涙ぐんでいた。


「何だか私……娘を嫁に出す気分でございます」

「嫁って……。
あたしはまだ嫁ぎませんよ」


あたしは笑いながらそう返す。

……でも、それぐらいずっとあたしのことを見てきてくれたんだよね。


「瀬和様は本当に心優しいお方です。
必ずや花音様を大切に育ててくださるでしょう」

「……はい」

「きっと……旦那様も花音様の背中を後押ししてくださってると思いますよ」


お父さん……。

一度も会うことのできなかったお父さん。

でも……あたしのことを生まれる前からずっと愛してくれていた……大切な人。


「矢田さん。
今まで……ありがとうございました」

「私の方こそ……。
花音様、何かあればいつでもお呼びください」

「はい。ありがとうございます。
……じゃあ、また」

「……はい。
また……いつか」


あたしは矢田さんに一礼して歩き始めた。

矢田さんはあたしが廊下の角を曲がるまでずっと……あたしの背中を見つめてくれていた。

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