オトナの秘密基地
そして、当時千島や北方領土に残っていた日本兵や民間人の多くが、そのままシベリアへ強制連行されて、炭坑や線路の建設のために、劣悪な環境で労働させられたこと……。

旦那様は知らない。

知らない方がいい。

歴史を変えられないのだとしたら、知るべきではない。

ならばこう伝えよう。


「私が住む時代は、とても平和です。

それは、この時代を生きた人達が必死に作り上げてくれた平和なんです。

中田家が後の世までちゃんと続くように、私もこれから頑張ります。

だから、心配しないでください」


結局、この程度のことしか言えないけれど、今の私が言える、精一杯の言葉だった。


「ありがとう、和実。

お前の名前の通りの世の中になるのだな。

そのために俺は行く、そうだろう?」

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