オトナの秘密基地
それから数日後。


北鎮部隊の一部が、千島へ向けて出発した。

美しいアーチを描く、旭橋を通り、軍人さん達が渡っていく様子を、カツヤと見た。

最期に、父さんを見せてあげたかったから。

我が子を、ひとめだけでも逢わせたかったから。

日の丸の小旗が振られ、大勢の市民が見送りに来ていた。


ずらりと並んだ軍人さんの列の中に、やっと征二さんを見つけた。

人ごみに押されて、カツヤが隠れてしまわないように、必死に庇いながら呼びかける。


「征二さん!」

「と~しゃん!」


行進の歩みを止めないまま、征二さんがこちらに気付いた。

眼鏡の奥に、いつもの優しい瞳が見える。

胸を張って、敬礼をする姿を、私はしっかりと目に焼き付けた。

征二さんはこうして、死地へ旅立った。
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