オトナの秘密基地
まるで、征二さんが戻ってこないことを期待しているかのような問いに、カチンときた。


「もちろん、それも覚悟しています。

いざという時、どうすればいいのか、征二さんが書き残してくれていますから、私はそれに従うまでです」


和子さんは軍人の妻だから、当然夫が還らぬ人となることも覚悟している。

征二さんは和子さんに全財産を託して、さらに叔父といとこには絶対に渡すな、と念を押した。


私が発した言葉には、

『中田家の財産は、和子さんがしっかり握っている』という意味を含ませている。

この時代の民法は、今の民法と違う。

家督を相続する者、つまり、直系の男子のみが相続するのが普通だった。

妻である私には、相続権がない。

当然、征二さんの叔父さんやいとこである正さんも権利はない。

まだ2歳のカツヤが、相続人となる。
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