オトナの秘密基地
正さんがいなくなってから、征二さんの書斎へ戻り、グズベリーの実を拾った。


「か~しゃん、だいじょ~ぶ?」


赤い実をほおばりながら、カツヤが聞いた。


「大丈夫よ。カツヤはもう、心配しなくてもいいの」


「ほんと?」


「ええ。カツヤが父さんとの約束を守って、母さんを助けてくれたからね。

カツヤと一緒だったから、心強かったわ」


「えへへ」


カツヤが膝の上に登って、抱っこをせがんできた。

子どもらしい、柔らかくてすべすべのほっぺが、私の頬に摺り寄せられる。

この子を守ることができて良かった。

これで当分の間、正さんからの嫌がらせを回避できるとすれば、安いものだ。

昭和二十年の貨幣価値で考えると、壱千円はかなりの金額だと言えるけれど、それをあっさり渡したのには理由があった。
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