オトナの秘密基地
それを渡したことで、正さんは私の事を馬鹿にしたけれど、さて、価値が解らないのはどちらなのか。

最後に見せた正さんのドヤ顔を思い出して、つい、笑ってしまった。

この時代を生きる正さんが知る訳もないのだから、ちょっと可哀想かも知れないけれど。


征二さんのお父さんが購入したのは『戦時国債』という、戦費調達のための国債だった。

戦時中、大量に消費される軍事費を賄うために、多くの国民が国債を買わされたらしい。

資産家の中田家も例にもれず、壱拾円の国債を百枚も持っていた。

今のお金に換算すると、かなりの金額になるはず。

でも、戦後のハイパーインフレで貨幣価値はどんどん下落。

貨幣価値が下がったため、戦時国債も払い戻し期間になると、紙切れ同然の価値しかなくなった。

つまり、私はいずれ紙切れとなる壱千円の戦時国債で、平穏を手に入れたことになる。
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