オトナの秘密基地
陣痛の合間に食器を片づけて、ラジオをつけた。

アナウンサーが、これから天皇陛下からの重大ニュースを発表するので、起立して聴くようにと話している。


「何の発表だろうね?」


幸子さんはケイコちゃんの後ろに立って、ラジオに耳を傾けている。


「さあ、何だろうね」


知らないふりをしつつ、私もカツヤの後ろに立って、幸子さんと並んだ。

ラジオから、君が代が流れ始めた。

……痛い、さっきより痛い。

また陣痛が来たけれど、この時代の国民として座り込む訳にはいかないと思って我慢した。

終戦の詔書を朗読する天皇陛下の声を聞きながら、陣痛に耐える。

テレビで見たのと同じ、いや、それよりも聞き取りにくいラジオの音声。

かろうじて「耐えがたきを耐え」のくだりだけがはっきり判った。
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