オトナの秘密基地
痛みが、きれいさっぱり消えた。

目の前は真っ白で、私はそこに漂っているような感覚。

陣痛から解放されてほっとした私の脳裏に、突然鮮明な映像が浮かんだ。


暗い中、必死にカツヤをあやす征二さんが見える。

その後すぐに和子さんが出てきて、カツヤにグズベリーを食べさせている。

防空壕から出て、カツヤを抱っこする征二さんと、後ろをついていく和子さん。

寝室で、和子さんのお腹を触って驚いている征二さんの表情。


これって、私が「中の人」になっている時のことじゃない?

和子さんが見守っていたその風景が、私の頭の中で再生されているのかも知れないと思った。

……なぜなら、出征する朝のことや、旭橋で見送った征二さんの姿が、とてもぼやけていたから。
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