オトナの秘密基地
耳元でいきなり名前を呼び捨てにされて、びっくりした。

手を握られて、さらに驚く。

でも私も、中田さんの感覚が失われた時、同じことをしたから。

握られた手のあたたかさを感じて、嬉しくなった。

感覚がかなり復活してきたのかも知れない。

ここでまだ、私は生きていると実感できる。


「和実、早く起きろよ。

起きて、俺の事を思い出せ。

起きないと、本気で……」


思い出すって、何を!?

私、中田さんの事を知っていた?

握られていた手が、そっと離された。

代わりに、首の後ろに手が回った。

抱き起こされて、中田さんの胸に寄りかかるような恰好にされる。


「起きろ。起きて俺と……」


俺と、何? 

頬に吐息を感じて、私は……。
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