オトナの秘密基地

翌日、彼から昨日の晩御飯のお礼にと、ランチのお誘いがあった。

この時、よせばいいのに私は昨日の汚名返上とばかりに、ものすごく気合いを入れた服装にばっちりメイクで待ち合わせ場所へ行った。

大人っぽい黒のワンピースに、歩きにくいけれど我慢して履いた7センチヒールのパンプス。


すると会うなりこう言われた。

「線香の匂いがするんだけど、もしかしたら法事とかだった?」

こ、この黒いワンピは別に冠婚葬祭用ではないんだけれど!

しかもお線香なんて、実家を離れた今じゃほとんど縁がないのに。

首をかしげつつ、彼の家の近所にあるレストランへ連れて行ってもらった。

レストランで

『好きなものを頼んでいいよ』

なんて言われたけれど、彼もまだ大学生。

少ないバイト代かお小遣いで無理させる訳にもいかないと思った私は、一番安いメニューだったチーズドリアをお願いした。

この時、また彼が微妙な表情を浮かべていたけれど、当時の私はそれがなぜなのかわからなかった。

今ならわかる。

男としての甲斐性とプライドの問題だったんだと。

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