オトナの秘密基地

確かに小学校の頃の、あんなに恥ずかしい私の過去を知っている人ではあるけれど。

もういいや、酔っぱらいの戯言だと思ってるんだろうし。

当時の私にとっては悲惨な出来事だったけれど、今なら笑って話せそうだった。

何より、これから真面目にお付き合いするのであれば、知っておいてもらった方がいいのかも知れない。

「そんな訳で十年前の夏、哀れな女子大生は彼氏にこっぴどく振られました。ちょうど、今みたいなシチュエーションで」

「今みたい、とは?」

「初めて彼の家に行ったんです。それで、なんとな~くいい雰囲気になって」

そう言った途端、中田さんの顔が険しくなった。そして。

「ふうん。こんな感じ?」

斜め向かいにいたはずの中田さんが、私の後ろに回ってきた。

ふわり、と背中が温かいもので包まれる。

後ろから優しく抱きしめられた。

心臓が口から飛び出しそうになりながらも、そのぬくもりが心地よくて、あの時のような嫌悪感は全く感じないのが不思議。

「ま、まあ」

適当に言葉を濁して返事をすると。

「それから、どうなった?」


< 266 / 294 >

この作品をシェア

pagetop