オトナの秘密基地
確かに小学校の頃の、あんなに恥ずかしい私の過去を知っている人ではあるけれど。
もういいや、酔っぱらいの戯言だと思ってるんだろうし。
当時の私にとっては悲惨な出来事だったけれど、今なら笑って話せそうだった。
何より、これから真面目にお付き合いするのであれば、知っておいてもらった方がいいのかも知れない。
「そんな訳で十年前の夏、哀れな女子大生は彼氏にこっぴどく振られました。ちょうど、今みたいなシチュエーションで」
「今みたい、とは?」
「初めて彼の家に行ったんです。それで、なんとな~くいい雰囲気になって」
そう言った途端、中田さんの顔が険しくなった。そして。
「ふうん。こんな感じ?」
斜め向かいにいたはずの中田さんが、私の後ろに回ってきた。
ふわり、と背中が温かいもので包まれる。
後ろから優しく抱きしめられた。
心臓が口から飛び出しそうになりながらも、そのぬくもりが心地よくて、あの時のような嫌悪感は全く感じないのが不思議。
「ま、まあ」
適当に言葉を濁して返事をすると。
「それから、どうなった?」