オトナの秘密基地
「それで、何のことかわからなくてびっくりしているうちに、彼が部屋から逃げ出しちゃって」


ついて来るな!

そんなことを私に向かって叫びながら出ていった。

「……で、どうなったの?」

「しばらくの間、その部屋にいたんですけど、彼が戻ってこないので帰りました」

そう、泣きながら。

確かに女としては微妙な私だけど、さすがにバケモノ呼ばわりは酷すぎる。

その後、彼からは何の連絡もないまま夏休みに入り、休み明けの講義前にいきなり「女として見られない」なんて別れを切り出された。

こんなに情けない初体験未遂は誰にも相談できず、私の干物歴だけが更新されたのだけれど。


「そういう雰囲気になっていきなりバケモノ呼ばわりする? それまではなかったんだろ?」

「まぁ……普通に仲良く話してました」

「更に親密になろうとした時に、バケモノに見えた?」

「おそらく……」

「いや、違う。バケモノに見えたんじゃなくて、バケモノが見えたんだと思うよ。そうだろ、ばあちゃん!」

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