オトナの秘密基地

「十年も前の経験がトラウマになっている、と?」

そう言いながら、また軽く唇を合わせてきた。

優しく頭を撫でてくれる手が、心地よい。

中田さんだったら、きっと……。

「そう、です。だから……忘れたいの」

そう言った瞬間、ぎゅっと抱きしめられた。

「忘れさせる。和実は俺のことだけを考えてくれたらいい」


すっぽりと包み込まれるこの感覚。遊具から降りられなくなって、助けてもらった時以来だ。
それだけでもう、安心できる。この人は私が本気で嫌がることはしない、と。

子どもの頃から頼れるお兄さんだと思っていたけれど、二十年経ってもそれは変わらなかった。

「忘れさせてください。中田さん」

「名前で呼んで」

「……博矢、さん」

「……っ、早く、忘れよう」

そのまま抱えあげられて、私達はリビングを後にした。


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