オトナの秘密基地
番外編 和子の涙 ~征二と和子の誓い~
~昭和十六年・真冬の旭川~
昨夜からしんしんと降り続いた雪が、お邸をすっぽりと覆い尽くしてしまった。
冷え切った廊下をそっと歩いて、台所へ向かう。朝御飯と御霊供膳(おりくぜん)の支度を先に、雪かきはその後で済ませようと考えながら、音を立てないように引き戸を開けた。
「おはよう、和子」
台所の奥、勝手口から張りのある声が聞こえた。まさか、先を越されてしまうなんて。若旦那様は外套を脱いで、曇った眼鏡を外している。つまり、もう雪かきを終えた、ということに違いない。
「おはようございます、若旦那様。申し訳ありません、すぐに食事の支度をします……」
昨夜遅く到着された若旦那様が、ゆっくりお休みできるようにと考えたのが裏目に出てしまった。恥ずかしさに下を向いたまま、台所の奥へ進んだ。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。まだ六時前だ。最近少し夜明けが早くなったから、雪かきが楽になった」
そう言いながら、土間で外套についた雪を払い落としている。
「和子、これ、吊るしておいてくれないか」
「わかりました」