オトナの秘密基地

「そのうち我が家が本家になるぞ。このご時世、征二はいつ何時最前線に送り込まれるかわからんしな」

 何という事を!

 お国のために必死に努力している若旦那様を思うと、怒りが込み上げてくる。

「そんな事仰らないでください」

「なんだ、刃向うのか?」


 酒臭い息がまた私の顔にぶつかって来た。

 その手を放して欲しくて、夢中でもがく。

 羽交い絞めにされそうになったところで、正さんの顔面に頭突きを食らわせ、何とか体勢を整える。

 相手は酔っ払い二人。何とかして逃げよう。どうせもう、ここには住めないのだから。

 私は即座に立ち上がり、一目散に裏口へと走り出した。



 割烹着のまま飛び出した私は、若旦那様の足跡をそのまま追った。

 何度も後ろを振り返ったけれど、どうやら正さんは追いかけて来ないようだ。

 少しほっとした瞬間、自分の行動に青ざめる。

 これから、どうしよう。

 後片付けも何もしないまま、家を留守にしてしまった。あの二人が本家の大事な財産を盗って行くことだって考えられるというのに。

 若旦那様から気を付けるように言われていたのに。

 自分一人では何もできないこと、逃げるのが精いっぱいだったことが悔しくてならない。
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