オトナの秘密基地
「カツヤ」の父親、つまり私の旦那様が喋った。

ひそひそ声だとわからなかったけれど、落ち着いた、いい声。

ところで帰るって、家はどこ?

まあいいや、この親子についていけばいいんだし。

話を合わせておこう。


「帰りましょう、カツヤ」


さっきはひそひそ声だったから気づかなかったけれど、いつもの自分の声とは違った響きを感じる。

秘密基地を出たのは、私が最後だった。


私達が遊んだ頃にはなかった、布の覆いと木の扉を閉める。

薄暗い中、はじめて「カツヤ」と父親の姿を見る。

……やっぱり私、戦時中の夢を見ているらしい。

あの秘密基地が、防空壕だった時代の。

「カツヤ」は、おしゃれじゃない、単なる坊主頭で、黒っぽい上下の服。

胸には白い布地が縫い付けられていて、記名されている。

歴史の教科書通りの、戦時中の子どもの姿だった。

< 41 / 294 >

この作品をシェア

pagetop